円熟の玉三郎

 南座坂東玉三郎 特別舞踊公演」を観劇。
★雨の五郎


曽我五郎時致 中村獅童
若い者    中村獅一
同      中村獅之助

後見     中村蝶紫

 定式通りの「雨の五郎」で、獅童の五郎は若さが漲っていた。しかし、所作の一つ一つに粗さが感じられた。テレビや映画に引っ張りだこな獅童だが、本業の修行も大切にしてほしい。


隅田川


斑女の前 坂東玉三郎
舟長   坂東竹三郎

後見   坂東守若
     坂東功一

 長唄での上演。でも斑女の前の悲哀をより表に出すのならば定式通りの清元の演奏の方がよく感じられた。竹三郎はこの人のニンとは違った役所だが無難にこなしている。上方歌舞伎名脇役の本領発揮というところ。


船弁慶


静御前   坂東玉三郎
武蔵坊弁慶 中村獅童
船頭    坂東玉雪
郎党    坂東幸
同     中村蝶紫
源義経   坂東薪車
平知盛の霊 坂東玉三郎

後見    坂東功一
      坂東玉朗
      中村獅一
      坂東竹朗    

 新歌舞伎十八番の内の一つだが、今回は能に準じた演出。道具も松羽目ではなく能舞台の屋根をイメージさせる吊物に向こう一面の黒幕。橋掛かりも舞台下手ではなく花道の鳥屋と全く異なる。玉三郎は時に例えば「鷺娘」で長唄の山台の前に紗を掛けて照明の具合で見えたり見えなくなったりと自分が引き立つような演出をする。今回は舞台全体を黒で覆ったことで静の華やかな衣裳が立ち、知盛の不気味さが増すという効果があったように思える。また、長唄囃子連中も出演者の一員であるということがはっきりと打ち出され、独善的な部分が影を薄くした。舞台だけでなく台詞回しも謡いあげるように演じ、これは歌舞伎本来の「歌」という面からもいい演出だろう。筋書のインタビューにもあったが演出についても今まで以上に考えて演じていこうという姿勢が感じられた。いよいよ今は亡き大成駒の領域へと踏み出す時か?
 薪車は4月の松竹座公演で師・竹三郎の前名を襲名して2度目の舞台。やはり玉三郎を相手にしてでは格落ちは否めないが、このような大役を演じる機会を生かして成長してほしい。竹志郎時代から身のこなしのよさも目立ち、女形もこなせる芸域の広い俳優。名題昇進と同時に師匠の前名を襲名したことから期待の高さがうかがえる。33歳。学年は一つ違うが上方歌舞伎の重鎮の一人である片岡秀太郎の息子・片岡愛之助とは同い年。互いに切磋琢磨し、上方歌舞伎を大いに盛り上げていってもらいたい。
 他では、船頭の玉雪がいい味を出していた。