ノダマップ「贋作罪と罰」

mixiに書いたものを転載。

初日から観てきましたよ。
会場について席を探し当てて、ホッと一息。しかし、
眼鏡を忘れた…
ちょっと見づらかったんですが、動きは何とかわかりました。表情まではよく見えなかったのが無念。


さて、感想ですが。一言で表わすと「巧くまとめてあるなあ」
原作は、もちろんドストエフスキーの同タイトル。岩波文庫で400ページ×3冊の大著ですが、これを2時間という枠に収めたわけです。ただコンパクトにするだけでなく分かりやすくなっていると思いました。
一番大きいのは「目的」。この作品の大きなテーマの一つは「目的のためには手段を選ばず」ということです。原作では目的が「出世するため」というような曖昧なものでしたが、野田版は「倒幕」という日本人にとって馴染み深いものに設定されています。
「倒幕」のためには将軍をはじめとし幾らかの犠牲はしょうがないと逸る志士と彼らの実行を回避しようと目論む才谷(実は坂本竜馬)の対立、といった構図でしょうか。
原作ではこの対立が主人公ラスコーリニコフ(野田版でいえば三条英にあたる)の中での葛藤として展開していくのですが、長くて幾分冗長な部分もあります(それはそれで僕は好きなのですが)ので、スパッと別の人物に分けたことで簡略化に成功しています。
原作を知らずに見ても楽しめるし理解できるでしょうね。クライマックスではすすり泣きも聞こえてきました。いい脚本だと思いますよ。


その簡略化の裏で、英のキャラクターがボケてしまっているのは残念なところ。罪の意識と目的遂行という大義名分との葛藤がかなり薄められているので冒頭での殺人の位置づけが曖昧になってしまっています。理由がはっきりとしないし、これがなければ物語が展開しないので致命的ともいえます。最初からこの殺人も倒幕と結び付けてあれば問題なく進められるんでしょうけれどもね。
溜水という主人公の妹の婚約者がいますが、これは原作ではルージンにあたり、典型的な薄っぺらな知識人の小悪人として描かれています。さらに原作で主人公が殺人を告白するのを盗み聞きしてルージンから主人公の妹を強奪しようとするスヴィドリガイロフの役どころも加えられています。この点でちょっと強引すぎるかなという印象を受けました。なぜ溜水が最後に拳銃自殺を遂げなければならないのか。そのあたりの掘り下げが甘いように思えたのです。単に恋に破れただけではあそこまで突拍子もない行動に移るには根拠が弱い。もっとも表情がよく見えなかったので、ひょっとすると細かな仕草や表情に溜水の内面が表れていたのかもしれませんが。

ただ、こういった点は「目的のために手段を選ばず」もっと言うなら「理想のためには殺人もやむなし」というテーマを描き出す上では瑣末なこととも言えます。

そして、改めてドストエフスキーの才能に感心してしまいました。野田秀樹でも持て余してしまうのか!!


演技面はパス。なんせ表情がほとんど見えなかったから(苦笑)。といっても残りの日も完売だろうしなあ。これだけが悔やまれる。