ドストエフスキー「二重人格」

正直なとこ、「?」な終わり方。結局、新ゴリャートキン氏は幻なのか現実なのか分からんし、現実であるならばどこからどうやって産まれてきたのか分からんし。新旧対決は旧の一方的な敗北のままなのか? あの糞鬱陶しい輩に対して何もできないまま終わるのか? それが人生だよアハハンというのなら、何て寂しくて何て希望のない世の中なのよ、現実とは。そして、マチカネバシャウマのオネーチャンのその後はどうなるのか…。最後は主人公どころかドストエフスキーまで(精神的に)死んでしまったというのか、ぶっ壊れたんちゃうんかと。
そんな中途半端なラストは措いて、そこへ至るまでの「もう一人の自分」との闘いと、その葛藤はさすが巨匠と唸らされる。ここまで克明に心理描写のできる作家なんか現代にはおらん。もっとも克明な心理描写を「長すぎて読む気も起こらない」とか「冗長でしんどい」というのが現代のインスタント好き読者でもある。需要のないところには供給してもしゃあないんかな。悲しいよな。一人の人間が一つの行動を起こすのにどれだけ悩んだり思いあぐねて決断しているのか、それすらめんどくさくて「さっさと答え教えてよ」となるマニュアル大好き、答えだけ知りたい、薄っぺらい者どもよ。おまいらの思考は途中が一切ないのか?
ぺらぺらの流行りもんでも活字を読んでるだけマシな連中にはせめて、これぐらい突き詰められた心理小説を読んでほしいなと思うし、何とかして読んでもらえんかなと思う。めちゃくちゃ面白いのに。