馬蕎麦

去年の大晦日に行列で撃沈させられた本八幡の一茶庵へ行ってみた。屋号こそ同じものの中山の一茶庵とは目指す方向が違うと感じた。
店に入ると奥の座敷に案内される。「奥の」と言っても古い民家をそのまま転用したような造りで、玄関からすぐ右には囲炉裏を切った四畳半。そこから正面へ二間四方の部屋が二つ続き、廊下が左へ折れる。その廊下から左には中庭が配置されている。廊下の先は右に六畳ほどの一間、そして突き当たりに小部屋が存在しているようだ。
今回通されたのは二間続きの奥の方の八畳。窓からは庭が見える。床の間には大きくはない掛け軸が掛けられ、陶磁にさっぱりとした花が活けられている。かつて仏壇が備え付けられていたであろう床の間の横のスペースには有田焼か何かの器が陳列されている。せいろそばの付け汁や水差しなどである。
同じような民家を利用しながらも、雑多な置物で占められている中山の店よりも統一感があり、風情を感じられる。
更科と田舎の二色もりを頼む。750円ぐらい。普通の蕎麦屋の値段だ。中山ならさらに500円ぐらいかかる。
出てきた蕎麦は、良く言えば洗練されているが、要は風味にやや物足りなさを感じる。殊、田舎そばに関してはひきぐるみで蕎麦の実を豊かに感じさせてくれる中山の方が好みだ。
素晴らしいのは付け汁で、鰹節から取った出汁を存分に活かし、醤油や塩でごまかさない。これだけを飲んでも美味い。しかし、それだからこそ、そば自体にも風味が欲しい。そばを食べに来ているのであって、付け汁を飲みに来ているのではない。もっとも値段を考えたら破格だとは思うが。
あっという間に完食だが、量は少ない。食べた直後に「さて次は何を食べようか」と思うぐらいである。やはり、この値段だから仕方ないのか。まあ美味しいんだが、量の少なさとそばのパンチ不足とを考えたら並んでまで食うもんではないわな。