伊坂幸太郎「砂漠」

最初は読んでいてこの作者一番の駄作と思った。
違った。
個人的には一番好きだ。
別に麻雀してるからというわけでもない。
それなりにリアルな話だからというわけでもない。
うらやましいのだ。オレは。
誰にもこういう学生時代の楽しい思い出はあって、そこで何がしかの「決着」をつけて、社会へ出て行くわけよ。
それを奇をてらうわけでもなく、ズバッとおおきに毎度ありと書けるのがうらやましいのだ。
書けへんよ、そう簡単には。
もちろんフィクションで、実体験が元になってたらそりゃすごいわということになるけど、まあ学生生活なんかはある程度下敷きがあるんやろうとは思う。
翻って、オレは何なんよと。
幸か不幸か激流に放り込まれて、でも何にもできん。生き証人にすらなれん。
つうかね、毎度毎度、「ああ先越されたなあ」って。
「人間にとって最大の贅沢とは、人間関係における贅沢である」
○か×か?
ってオレはトメさんか。グフフフ…
と茶化してみたが、結局、オレの言いたいことは全部言うてくれた。いや、言いやがった、チクショウ。
読んでいて突き刺さるのだ。西嶋の言葉が。ひとつ、ひとつ、オレに向かってくる。
そうよ。結局オレは何にもできていないんよ。
そして自分に憤りを覚え、その後、絶望する。
なんてことは、まるでない。


いや、あるんやけどね。
「なんてことは、まるでない」
っていうのが1つのキーワードというか、まあ、売れ過ぎた作家の自分に対する警鐘というのか、こうしたら売れる小説が作れますというような書き方に対する挑戦状というのかね。
それにオレはほくそ笑むんよ。くさい文章書きやがって、と思ったら例の一文。そらそうなるわな。ただ照れが見えるよなあ(笑い)。


延々数百ページにわたって大した話をしているわけでもないし、麻雀分からん人にはちんぷんかんぷんな箇所もあるし、「魔王」とかね、そういうのと比べると駄作って言われるかもしれんけど、個人的には一番親近感を持てるんよ、今までの伊坂作品で。
にしても、久しぶりに競馬場で読書にふけってしもうたなあ。時間を忘れて。