レッド・クリフ

ある日のニュートンの日記。
「昼寝をしていたら、リンゴが木から落ちてきた」
あるいは、ある日のアルキメデスの日記。
「風呂に入りながら沈めていたあひるのおもちゃが浮いてきた」


科学は事象の記録ではない。
ある事象が起きた時に、そこから何を導き出せるかが大事なのである。
「このリンゴは何かの力に引き寄せられて落ちてきたんじゃないか」
「風呂でフローテーション(浮力)を発見した!」
ということですね。
さらには、
「リンゴだけじゃない。他のあらゆる物もお互いに引き寄せる力を持っているんじゃないか。」
とハッテンさせて考えていくことこそが科学の本道なわけです。


さて、ワシも多少なりともかじっておりました歴史学というものは、世間的には「いついつにどんな事件が起きたのかを調べる勉強でしょ」と言われることが多いわけです。
しかし、それは単に「今日、リンゴが木から落ちてきました」ということを調べるだけでしかないわけです。
その事件についての因果関係であるとか、あるいは、影響などを調べていく。そこから一般化していくことこそが本質なのです。
だからナポレオンがモスクワで敗退しましたとか、日本はアメリカに負けましたとかそういうのは正直、どうでもいい。
問題は、なぜそうなったのか、そのことがどういう影響を及ぼしたのか、類型はないのか、一般化すると人間はどういう時にどういう行動をとるのか。そういうことではないかと思うのです。


さて、レッド・クリフ。1は、まあ予告編というのか、素晴らしいデキで感動しましたが、2はどうか。途中で終わってると気持ち悪いのと、今日、あまりに暇を持て余していたので「たまには(ドラゴンボール以外の)映画でも観てみるか」と行ってみたわけです。
正直なところ、感想としては1同様、「何も考えずにみてるだけなら面白い」映画です。相変わらず勧善懲悪一本槍で。1,800円払って水戸黄門がみられるかというところです。
もっともこれが人間ドラマの王道なわけです。捻らない、ストレートなストーリー展開。「赤壁の戦いで、孫権劉備の連合軍は曹操軍を撃破しました」で終わらない、それを取り巻くさぶストーリーを中心に、ヒューマニズムを押し出していくという。
ストーリー展開は単純です。捻りも何もないです。
けど、ハリウッド映画か少年ジャンプの漫画と思えば存外楽しめるんですね。
戦闘シーンではどんだけ火薬を使ったんか、壮大なセットを壊すためだけに作るという空しさ、あるいは、典型的な「お涙頂戴」の展開。
どれをとっても一級品です。アジアでもこれだけハリウッドに対抗できる映画が作れるんよと。

いきなりお嬢様が単身スパイとして乗り込んだり、戦闘間近という敵陣へ一人で茶を点てに出向いたり(もっとも時間稼ぎという作戦なわけですが)。実際にはありえないストーリーが繰り広げられるわけです。(そして、誰も気づかなかったり、捕らえて殺したりレイープしたりしない)
この辺の筋は、現代の女性の強さ、「女でもこれだけできるんよ」というのを出していきたかったんでしょう。でも、これは1,800年前のお話なわけですよ。
というと、くだらん「事実蒐集」になってしまうので、ワシとしてはこれはこれでありかと思うし、逆に面白いとも思う。
もともと三国志の時代なんてまともな考証にたえうる史料なんかほとんど残ってないわけですよ。史実史実と叫んでみたところでどれが史実なんかは分からない。ある意味、残されているものは全部フィクションと言っていい。その「フィクション」の一つと思ったらエンターテイメントとしては面白いんではないのと。


「歴史にIFはない」というのはよく言われることで、「もし信長が光秀の謀反に気づいていたら」とか「もし太平洋戦争末期にソ連が北海道へ侵攻していたら」とかいうことが挙げられます。
歴史学からしたら完全に邪道ですが、エンターテイメントとしてはこれほど面白いものはない。洋の東西を問わずこの手の妄想は創造につながっとるわけですよ。いろんな種類の本や映画やゲームが出されているのが何よりの証拠。
もちろん、その大半はどうしようもないオナニープレイなわけですが、中には現実よりも興味深い架空があるのも事実です。
その「歴史IF」の典型として新たに加えられたのが「レッド・クリフ」なんではないかと思うんですよ。結末は史実に沿って、経過は「IF」で。いや、IFも何も正確なところは分かってないわけですね。詳細が不明だからこそ大胆に創れるわけです。
そこでみせてくれたのが、「アジアでもこれだけアメリカと同じようなことができるようになったぞ」という国威発揚であり、「東洋の神秘はこういうもんだ」(リン・チーリンの小喬に関する一連のスロー回しなんかがそうです)という誇りであるわけです。
2つの作品を通して観ることでスッキリしたというのか、見方が変わったというのか。
なかなか面白いと思いますよ。


ストーリー? そんなん、あるわけないやん(笑い)
ただ、こういう「お涙頂戴」の展開は強引に持って行けば行くほど感動の押し売りとしては効果が高い。後ろにおったカップルのおねーちゃんマジ泣きしとったもんなあ。
楽しみ方は人それぞれなので、面白けりゃそれでええと思うんよ。