スタンダール「赤と黒(下)」

赤と黒〈下〉 (岩波文庫 赤 526-4 9

赤と黒〈下〉 (岩波文庫 赤 526-4 9

下巻は一転硬派な内容になる。といっても一見、相変わらず軟派な話ではあるが。
色話で尽くされていた上巻に対して、サロン、教会、法廷に対する風刺が主人公を通して描かれ、自分の理想の中に死んでいく。
ある意味バカなやつとは思う。融通のきかない。
「欲」というのがキーワードと思う。性欲、名誉欲、金欲、物欲…
それらがあってはじめて人間といえるやろうし、「欲」を描くことがすなわち人間を描くこと、人間社会を描くことなんやろう。
そして、最後に作者の「あとがき」のようなものがある。引用してみよう。

世論はわれわれに自由を与えるが、一方、世論が万事を支配してもこまることがある。それらが何ら関係のないことにまで、たとえば人の私生活にまで干渉したがることである。アメリカやイギリスが憂鬱であるわけはここにある。

19世紀のアメリカやイギリスだけではないな。21世紀の日本もおんなじ。いや余計にひどい。
何もかもが「世論」で決まる。政治でさえ。本来ならば世論を動かすことだってできるはずの政治でさえである。支持率が気になるから、総選挙が控えているから、といった世論しか(いや、そこから生まれる権利欲か)考えない連中なんか信頼ゼロや。方針なんかないんやから。
そんなわけで、21世紀の日本は迷走し続けるのである。

フヂワライさんの読書メーター