円地文子「源氏物語」

9月の連休に石山寺へ行った時に資料館を見ていて読もうと思い立ったのだが、さすがに6分冊で時間がかかった。というより、途中まで色んな本を平行して読んでたのがよくない。こういう大作に挑む時は一本に絞って集中しないと。途中で気付いたのでそこからはスッと進んだ。
源氏自体は3度目で、10年ぐらい間隔で読んだことになる。最初が与謝野版で、次が谷崎。今度の円地源氏が一番読みやすかった。自分の理解力が高まったというのもあるが、文章が易しい。易しいというのは、決して簡単な言葉を使っているという意味ではなく、古典的な雰囲気をかなり残している与謝野、谷崎訳に比較して昭和時代の口語訳になっているからだ。さらに訳者による補筆もあり、登場人物の心理状況などが分かりやすくなっている。これを意訳しすぎだという向きもあるかもしれないが、本当に物語を理解するためならあってもいいんじゃないかと思うし、実際、あった方が分かりやすい。読んでも「読んだつもり」で内容を理解できていなかったら単なる時間の浪費でしかないから。
前回、谷崎版を読んだ時には、源氏の華やかなりし時代、須磨明石から戻ってきて以降に面白味を感じていたが、今回いちばん心に残ったのは宇治十帖。何だかね、誠意を尽くしているのに報われないというよくある話に同情する。また10年後に読んだら全然違うところにひかれたりするんだろうな。そういう懐の深さが源氏が読み継がれてきた理由の一つなのかもしれない。