綿矢りさ「インストール」

インストール (河出文庫)

インストール (河出文庫)

今さらながらという感じもあるけれども、「夢を与える」が出たところで、もう一度、遡ってから読んでみようと思った。
ここから「蹴りたい背中」へと続くわけやけど、その間の成長、というか「インストール」の幼さ、そして、その中にも光るものが見えた。
幼さ、というか不完全さ。設定がめちゃくちゃ。目標がよくわからなくて、受験勉強にちょっと疲れて、それでいきなり登校拒否? はあ? 何か(書き込みが)浅いな。とはいえ、登校拒否とか出社拒否みたいなんは、見た目にはいきなりやからな。けど、そこまでに辿り着く葛藤というか、心の動きみたいなもんはある。本人は無意識でもある。それはそこまでに積み上げられてきた経験とか環境とかそういったもんが合わさってできるんやろうと。で、そこまで無遅刻無欠席の皆勤模範生徒で十七歳のじょしこおせいで処女、に「二日酔いの気分で起き上がり」、って二日酔いになるまで飲んだことがあるヤツが無遅刻無欠席? ひな祭りの白酒で酔ってるヤツが二日酔い?
ただ、そういうところは細かい粗探しみたいなもんで、荒削りなところはあるけれども物語としての面白さはあった。ただまあ最後も幼いんやけどね、ネット上のつながりよりも実際の人と人とのコミュニケーションとか、教科書どおりの答えしか出てない。書いてる本人が模範生徒なんやろ。いくら悪ぶって、正体を隠してるけど、分かるわ。って憶測で書いてるけど。
でも、子供が自分では完璧と思ってやってることって意外と大人には全部筒抜けで、大人は知っていても黙っていてやるもんなんや、エスカレートせんうちは。そういうのは分かってるよな。
書き下ろしの「you can keep it.」は、大学生活をして、その風景を書きたかったというのがあるのかもしれんけど、あんまりうまくできてないよな。でも、あげたいからあげる、喜んでくれるんならあげる、というのは分かるわ。そういう純粋な気持ち。毒々しいキャラクターよりもこういうのを書かせた方が生きてると思う。
文章とか構成とかはこれからやろ。「夢を与える」がどれだけ進化してるか、というのは一つ興味深いな。ちょっと、(図書館へ)いこか…
ところで、文庫の解説の高橋源一郎、最悪やな。彼の小説を読んで面白いというかすごいと思ったことはない(もっともちゃんと買って読んだのは競馬のエッセイだけやけど)し、はっきり言うと理解不能なんやけど、それはこの解説見てたら分かるわ。要するにありきたりなモンは面白くないし、かといって奇をてらったモンもそこまですごいもんはない(いや、アンタの小説がそうやろ)ということやろ。しかし、それは歴史を否定して、ゼロから全く新しいものを創り出そうという勘違い。本当の始まりはゼロからかもしれない。けれども、今を生きていて、その中で何かを生み出すという作業の中で意識的にも無意識的にも既存のものが背後にはある。それを否定するということは自分の存在そのものを否定することに近い。
「天才」というのがいるとすれば、それは奇跡やろ。「天才」に見える人間がどれだけの努力をしているか。天才「たち」、そんなに天才は安売りしてはいない。みんな秀才なんや。そして努力家なんや。それができないモンは(アンタや)、分からん。僕もできんから分からん。知らん。分からん。ちょっといこか…
(最後は「もういいですか」と自ら切り上げるように高橋源一郎が降板した小倉競馬場の中継ブースへ)

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