スタンダール「赤と黒(上)」

赤と黒〈上〉 (岩波文庫)

赤と黒〈上〉 (岩波文庫)

内容として深みはないけど、この心理戦。
ドイツやロシアの大作が徹底的に深さで勝負するのならば、これは鋭さ。
例えてみれば、底力であらゆる条件を克服したアグネスデジタルと鬼の末脚で距離を突き破ったデュランダル
どちらが偉いかとか、作品として上かとか、そういうのはないと思う。まったく違う土俵で比較してもしょうがない。
単なる恋愛小説ちゃうんと高を括っていたけど、読んでみたらそうじゃない。これだけ克明に主人公の心理状況を、会話で、地の文で、()で、描写しているのには敬意を表するしかない。
なんせ、450ページ読んで、「内容を要約せよ」と言われたら、
「貧乏な家に生まれた主人公がたまたま町長の家庭教師になって、そこのキレイな奥様と不倫しました。それがばれたので主人公は身を守るために別の街の神学校に入りました。そこでも非凡な才能を発揮し、パリのとある貴族に見込まれてお抱えに雇われることになりました」
わずかな事件しか起きていない。でも、その一つ一つに対しての描写が鋭く、たたみかけるように彫られていく。
面白いですよ。